顎関節症を正しく理解し、健やかな顎を取り戻そう
「口を開けるとカクカクと音がする」「朝起きると顎がだるい」「口が大きく開けにくい」。これらは、多くの方が一度は経験する顎関節症の典型的なサインです。顎関節症は放置すると慢性化し、日常生活の質を著しく低下させることがあります。しかし、正しい知識とセルフケアで改善できる可能性が高い疾患でもあります。ここでは、顎関節症の正体と、現代人に増えている原因について解説します。
顎関節症とは
顎関節症とは、顎の関節やその周囲の咀嚼筋(噛むための筋肉)に痛みや機能障害が生じる疾患の総称です。単に顎の痛みだけでなく、頭痛、肩こり、首や肩のコリ、さらには耳の詰まり感(耳閉感)など、全身的な不調として現れることが少なくありません。

隠れた主因:TCH(上下歯列接触癖)
かつて顎関節症の原因は「噛み合わせの悪さ」にあると広く信じられてきました。しかし、東京医科歯科大学などで長年研究されてきた結果、現在では「TCH(上下歯列接触癖)」が極めて重要な因子であることが明らかになっています。
本来、リラックスしている時の上下の歯は、わずかに離れているのが正常です。しかし、現代社会ではストレスやデスクワークへの集中、スマートフォンの使用などで、無意識のうちに上下の歯を接触させ続けてしまう人が増えています。これがTCHです。
たかが数グラムの接触であっても、長時間続けば顎の筋肉は持続的に緊張し、顎関節に過度な圧力がかかり続けます。結果として、筋肉の疲労や関節円板の変位を引き起こし、痛みや開口障害を招くのです。「噛み合わせが悪いから治す」のではなく、「無意識の癖を治す」ことが治療の近道です。
治療のステップ
顎関節症治療のゴールは、外科的な介入を極力避け、自己管理によって「症状と上手に付き合い、改善させる」ことにあります。
- 行動療法(セルフケア): 最も重要です。日中、「歯を離す」ことを意識的に行います。PCモニターやスマートフォンの画面など、日常目に触れる場所に「歯を離す」と、ポストイットにでも書いたメモを貼るのが効果的です。食卓や洗面所の鏡、トイレの扉なども良いです。少なくとも10枚以上を(10か所以上)貼り付けます。それを目にしたら、「口を開ける」のではなく、あくまで「歯を離す」のです。口を開けようとすると開口筋群が動き出すので、べつの緊張を伴います。周りに誰もいなければ、一回肩にギュッと力を込めてすくめた後に、「ぱっ」と声を出して肩の力をだらっと抜きます。(他人が居るときには声を出すのはやめておきましょう。)
「リラックスして、歯を離す」という意識付けを繰り返すことで、徐々に脳が悪い癖を忘れていきます。 - 物理療法・薬物療法: 筋肉の緊張が強い場合は温熱療法を行い、血行を促進して筋肉をほぐします。また、急性期の強い痛みがある場合は、短期間の鎮痛薬や筋弛緩薬を用いることもあります。
- スプリント(マウスピース)療法: 睡眠中の無意識な食いしばりが強い場合は、夜間にオーダーメイドのマウスピースを装着します。これにより、関節にかかる圧力を分散させ、顎関節への負担を物理的に軽減します。
最後に
顎関節症は生活習慣病の一種と言えます。自分の顎に過度な負担をかけている原因を理解し、生活リズムを整えることが、何よりの治療です。痛みを放置すると、食事や会話といった日常の楽しみまで制限されてしまいます。もし気になる症状があれば、決して放置せず、お近くの歯科医院へご相談ください。私たち専門家が、あなたと一緒に顎の健康を取り戻すサポートをいたします。
参考文献
- 木野孔司 著『顎関節症は「噛み合わせ」では治らない:TCH(上下歯列接触癖)をコントロールする』(クインテッセンス出版)
- 日本顎関節学会 監修『顎関節症の診療ガイドライン』
- 日本顎関節学会 監修『顎関節症患者のための自己管理(セルフケア)マニュアル』
